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江津湖というのは私の郷里熊本のさして大きくはないが、水の美しさと清澄さ、数多の淡水魚の豊富さとで有名な湖である。阿蘇山がその水源地といわれ、水前寺という川が、山麓の森林地帯の地下水を集めて楽し気なせせらぎの音を立て乍ら、江津湖へ流れ注いで、湖水は何時も溢れるばかりの水をたたえている。(中略)
一体にこの地方は江津湖や水前寺川のみならず、到るところに沼沢や小川があって宛然一大水郷をなしている。従って魚心あれば水心・・・ではない、水心あれば魚心という具合で、夥しい川魚が棲息している。こんなところに育った関係から私は幼時から水と魚を相手に暮らして来たと言っても誇張ではない。素晴らしい美人や、美しい草花、それ等に増して「魚」を賛美するもの、それは私に取って自然な事だ。(堅山南風「想い出のままに」より抜粋)
・メール kakubinta@gmail.com
※カーソルを魚の写真の上に置くと種名が表示され、クリックすると詳しい解説を見ることができます。
バラタナゴ類(Rhodeus ocellatus)
江津湖周辺ではバラタナゴを含めてタナゴの仲間はビンタ、シビンタとも言われます。
全長4-5cmの小型のタナゴで、産卵期のオスは真っ赤に色づきます。ヌマガイやタガイなどのドブガイ類やイシガイなどの二枚貝の中に産卵します。
江津湖にはかつて日本在来のニッポンバラタナゴがいたらしいのですが、現在では外来種のタイリクバラタナゴとの交雑(雑種化)が進み、純粋なニッポンバラタナゴはいなくなったと考えられます。
2017年5月 緑川水系で撮影
江津湖ではありませんが、農業用排水路に湧水が流れこむところで、様々な魚が流れてくるエサを食べていました。
排水路自体は濁っており、そこから遡上してきた婚姻色豊かなバラタナゴのオスを観察できました。色彩はまるでニッポンバラタナゴですが、この水系で外来種タイリクバラタナゴの遺伝子を持ったバラタナゴが確認されているので、交雑個体であると考えるしかありません。
2013年8月 江津湖で撮影
偶然にも、江津湖でバラタナゴ類の産卵行動を観察することができました。
右側の産卵管を伸ばしつつあるのがメス、左側の赤く色づいているのがオスです。メスがのぞきこむ先の水底に、イシガイ類が潜っているのでしょう。
2011年3月 江津湖で撮影
上の2つがドブガイ類、下の細い貝がイシガイです。
バラタナゴ類やカゼトゲタナゴ、カネヒラ等のタナゴ類が産卵に使う大切な貝です。
2011年4月 江津湖で撮影
砂と泥が堆積して水通しのよいところに、ドブガイがいました。
このように体のほとんどは泥の中に潜り込んで、水管を出して呼吸しています。タナゴ類はこの水管(出水管)に卵を産みつけるそうです。
2019年5月 緑川水系で撮影
バラタナゴの産卵期である5月に、麦畑の中にある農業用排水路で真っ赤なオスを捕えました。
ほ場整備により用排分離された水路でも、底泥があって二枚貝が普通に生息できて、隠れ処や越冬場となる深みがあればタナゴ類は割と生きていけるようです。ただし、「二枚貝が普通に生息できる」という条件は思うほど簡単ではありません。
2019年5月 緑川水系で撮影
上のオスと同じ水路で捕えたメスです。産卵管が非常に長いのもバラタナゴ類の特徴です。
2019年7月 他の川で撮影
熊本県内の他の川で捕えたニッポンバラタナゴと思われるオスです。
一匹でもタイリクバラタナゴが侵入したとたん交雑集団となり、ニッポンバラタナゴはいなくなってしまいます。他の川の魚やペットとして売られていた魚を放流してはいけないということになります。
2024年5月 他の川で撮影
ここは、外来のタイリクバラタナゴと交雑していない純系のニッポンバラタナゴであってほしい水系。
ドブガイ類に対し二匹のオスが縄張り争いし、勝った方のオスがメスとペアを組み産卵行動をとっていました。