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江津湖というのは私の郷里熊本のさして大きくはないが、水の美しさと清澄さ、数多の淡水魚の豊富さとで有名な湖である。阿蘇山がその水源地といわれ、水前寺という川が、山麓の森林地帯の地下水を集めて楽し気なせせらぎの音を立て乍ら、江津湖へ流れ注いで、湖水は何時も溢れるばかりの水をたたえている。(中略)
一体にこの地方は江津湖や水前寺川のみならず、到るところに沼沢や小川があって宛然一大水郷をなしている。従って魚心あれば水心・・・ではない、水心あれば魚心という具合で、夥しい川魚が棲息している。こんなところに育った関係から私は幼時から水と魚を相手に暮らして来たと言っても誇張ではない。素晴らしい美人や、美しい草花、それ等に増して「魚」を賛美するもの、それは私に取って自然な事だ。(堅山南風「想い出のままに」より抜粋)
・メール kakubinta@gmail.com
※カーソルを魚の写真の上に置くと種名が表示され、クリックすると詳しい解説を見ることができます。
カゼトゲタナゴ
(Rhodeus smithii smithii)
カゼトゲタナゴを含め、タナゴの仲間は、ビンタ、シビンタとも言われます。
カゼトゲタナゴは九州北部のみに生息する固有種です。大きな個体でも5cm程度と小型ですが、青いラインが特徴で、繁殖期のオスは赤や黒などに色づき、「淡水魚で最も美しい」とも言われます。イシガイなどの二枚貝に卵を産みつけて繁殖します。
砂泥底で、浅く緩やかな流れを好むようです。かつては上江津湖にいたそうですが、最近では産卵母貝のイシガイなどと一緒に減ってしまい、めったに見ることがありません。
2012年4月 江津湖で撮影
この時は幸運なことに、江津湖で複数のカゼトゲタナゴを捕まえました。
江津湖で局所的に残っている産卵母貝のイシガイとともに、世代を引き継いでほしいです。
2015年4月 江津湖で撮影
幸運にも、江津湖で捕まえたカゼトゲタナゴです。
1989年に江津湖で行われた調査の報告書には、「上江津湖の湧水域のごく一部の流水に生息する。」とありますが、江津湖での生息環境は大きく変化しています。
2019年5月 緑川水系で撮影
緑川水系の農業用水路で、カゼトゲタナゴたちが闘争していました。
水質が割とよく、浅くて適度に水草が生えています。流速は毎秒5cm程度でしょうか。もちろん、カゼトゲタナゴの生息にはマツカサガイやイシガイなどの産卵母貝がいることが必須です。
2019年5月 緑川水系で撮影
小さなマツカサガイをのぞきこむ2匹のカゼトゲタナゴのオスです。
水深が30cmもない浅い水路で小さな魚たちの行動を観察していると、個人的にはとても幸福な気分になれます。
2019年4月 他の川で撮影
春先の伏流水が流れる水路に、若々しいカゼトゲタナゴたちが群れていました。
前年の夏ごろに生まれた個体と考えられ、二年目のこの年の春夏に繁殖し、冬を越えることなく死んでしまうのだと思われます。
2019年4月 他の川で撮影
カゼトゲタナゴのオス(上)とメス(下)が水路底をずっとのぞきこんでいました。ここにはイシガイが潜っているようです。
オスは他のオスが近づくと追い払い、この後、産卵・受精を行いました。
2014年5月 他の川で撮影
カゼトゲタナゴのオスが、ヒレをいっぱいに広げて他のオスと闘争していました。
ちょっと近づきすぎて画像がにじんでしまいました。