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江津湖というのは私の郷里熊本のさして大きくはないが、水の美しさと清澄さ、数多の淡水魚の豊富さとで有名な湖である。阿蘇山がその水源地といわれ、水前寺という川が、山麓の森林地帯の地下水を集めて楽し気なせせらぎの音を立て乍ら、江津湖へ流れ注いで、湖水は何時も溢れるばかりの水をたたえている。(中略)
一体にこの地方は江津湖や水前寺川のみならず、到るところに沼沢や小川があって宛然一大水郷をなしている。従って魚心あれば水心・・・ではない、水心あれば魚心という具合で、夥しい川魚が棲息している。こんなところに育った関係から私は幼時から水と魚を相手に暮らして来たと言っても誇張ではない。素晴らしい美人や、美しい草花、それ等に増して「魚」を賛美するもの、それは私に取って自然な事だ。(堅山南風「想い出のままに」より抜粋)
・メール kakubinta@gmail.com
※カーソルを魚の写真の上に置くと種名が表示され、クリックすると詳しい解説を見ることができます。
ヤリタナゴ(Tanakia lanceolata)
タナゴの仲間は、熊本ではビンタ、シビンタとも言われます。
全長約10cm。体型はスマートで口元に目立つヒゲがあり、産卵期のオスは尻ビレの周囲が赤く色づきます。
ゆるやかな流れがあり、水草の多い場所をすみかとします。4~8月ごろ、マツカサガイ、イシガイ、ドブガイなどの生きた二枚貝の中に産卵します。
ヤリタナゴはもともと江津湖には普通にいて、タナゴ類の中でも数が多かったようですが、最近ではなかなか見つかりません。卵を産みつける二枚貝がいなくなったのも理由の一つだと思います。
2014年3月 緑川水系で撮影
早春はヤリタナゴの産卵の季節です。
河川に近く二枚貝がたくさんいる水路では赤く色づいたヤリタナゴたちが活発に活動していました。農業や震災復旧のため周辺水路の工事が進み、この豊かな水路の環境も変わりつつあります。
2010年4月 江津湖で撮影
江津湖で釣り上げたオスのヤリタナゴです。江津湖にはかつてヤリタナゴが普通に見られたようですが、今では見つけることがなかなか難しくなっています。
2011年5月 江津湖で撮影
江津湖で捕まえたヤリタナゴのメスです。まさに産卵の季節で、お腹から短い産卵管が出ています。これをマツカサガイなどの二枚貝に差し込み、卵を産みつけます。
2022年5月 他の川で撮影
熊本のとある水路では、カワムツやオイカワに混じってヤリタナゴたちが泳いでいました。二枚貝が多い上流側に集まっていたようです。写真はイシガイをのぞくオスのヤリタナゴです。