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江津湖というのは私の郷里熊本のさして大きくはないが、水の美しさと清澄さ、数多の淡水魚の豊富さとで有名な湖である。阿蘇山がその水源地といわれ、水前寺という川が、山麓の森林地帯の地下水を集めて楽し気なせせらぎの音を立て乍ら、江津湖へ流れ注いで、湖水は何時も溢れるばかりの水をたたえている。(中略)
一体にこの地方は江津湖や水前寺川のみならず、到るところに沼沢や小川があって宛然一大水郷をなしている。従って魚心あれば水心・・・ではない、水心あれば魚心という具合で、夥しい川魚が棲息している。こんなところに育った関係から私は幼時から水と魚を相手に暮らして来たと言っても誇張ではない。素晴らしい美人や、美しい草花、それ等に増して「魚」を賛美するもの、それは私に取って自然な事だ。(堅山南風「想い出のままに」より抜粋)
・メール kakubinta@gmail.com
※カーソルを魚の写真の上に置くと種名が表示され、クリックすると詳しい解説を見ることができます。
アブラボテ(Tanakia limbata)
タナゴの仲間は、ビンタ、シビンタとも言われます。ニガビンタ、という言い方もあるようです。
全長5cmくらいの中型のタナゴです。口元に一対のヒゲがあり、体の色が油のように茶や黒く色づくため「アブラボテ」の名前がつきました。
ゆるやかな流れがあり、水草の多い場所をすみかとします。4~8月ごろ、生きた二枚貝の中に産卵します。マツカサガイを好んで産卵に使うようです。
ヤリタナゴと同じように、もともと江津湖では普通にいた魚のようですが、最近ではほとんど見かけません。
2018年4月 他の川で撮影
春はアブラボテの産卵の季節です。
マツカサガイやヌマガイがいる小さな川には、たくさんのアブラボテがいました。
写真は大型のオスとメスがペアを組み、マツカサガイをのぞいているところです。現在の江津湖ではこのようなアブラボテの繁殖行動を見ることはありません。マツカサガイがほとんどいないからです。
2014年1月 江津湖で撮影
小型のアブラボテを数年ぶりに江津湖で見つけました。いるところにはとてもたくさんいるのですが・・・。
2019年5月 他の川で撮影
口元に長いひげを持っています。
実はとても食いしん坊で、釣りをしていると真っ先に餌を食べてくれます。
2021年3月 江津湖で撮影
アブラボテが数匹江津湖にいました。かつては普通にいたというマツカサガイ、イシガイ、ドブガイ類の減少とともに、江津湖ではアブラボテをほとんど見なくなりました。
色々な魚や貝が普通にいて、子供たちが手軽に釣ったり捕ったり、時には食べたりといった普通のことが、なかなかできなくなっています。
江津湖に限らず、生きものに溢れる楽しい川や水路に戻ればよいと思います。
2021年3月 江津湖で撮影
上の写真と同じ日に江津湖にいたアブラボテです。
石に付いた藻類か何かを盛んに食べていました。